
山陽新聞コラム④ かんかくもーる
2026年06月30日 22:19
2024年4月から「かんかくもーる」という名前の施設で、障害や特性のある人にも過ごしやすい多感覚環境(スヌーズレン)を提供しています。岡山市南区藤田ではじまり、のべ3,000人を超える方に利用していただきました。その後、2026年4月より、岡山市北区青江に場所を移し、現在はこちらで活動を続けています。
ショッピングモールで買い物をするときのように、好きな感覚を自由に選んで楽しんでほしい。そんな思いから「かんかくもーる」と名づけました。障害の有無や年齢などに関らず、誰でも利用することができますが、誰もがはじめから楽しめる場所というわけではありません。
突然連れて来られた知らない場所。薄暗い光の部屋。見たこともない道具。会ったことのない人たち。
ときには、そんな恐怖や不安からのスタートになることもあります。ここは安心・安全な場所なのか。建物内を行き来したり、扉を片っ端から開け閉めしたり。そんな確認作業が繰り広げられるときだってあります。その緊張が和らぐまでに、数日かかるなんてことも珍しくはありません。
一方、言葉がなくても「感覚」を通じて分かり合う、そんな瞬間が生まれることもあります。目の前の人は、一体どんな人なのか。初めて会った人同士が、同じ空間の中で触れ合いやがて並んで寝転ぶ。苦手な感覚を乗り越えてでも、一緒にいたい気持ちが勝る。そこには、障害のある人とない人の境界線など存在しません。
いつもおしゃべりが絶えない人が、ふとおしゃべりを忘れていたり。誰かのつけていたイヤーマフが置き去りになって忘れられていたり。「絶対入って来ないで!」と、なぜかいつもお母さんだけがスヌーズレンの部屋から閉め出されたり。不思議な出来事も、数多く起こります。
「ここに来てから、普段落ち着きのない子どもの穏やかな時間が増えました」「家の中で落ち着く場所を自分で見つけて過ごせるようになりました」「不眠に悩んでいるのですが、ここに来た日はなぜかぐっすり眠れます」そんなお話を、あとからお聞きすることもあります。
この場所で起きていることやさまざまな変化。それらに、ただ静かに寄り添っていくこと。その大切さを日々感じています。
あなたがただ「あなた」でいられる場所、かんかくもーる。ここには、心をそっとほどきながら、自分自身の感覚や目の前の人と向き合うことのできる、そんな無理のない時間が流れています。
※本記事は、2026年4月28付 山陽新聞に掲載された、大西執筆コラムをもとに、ホームページ向けに加筆・再編集したものです。